医療事故調1年 なぜ届け出が少ないか

医療事故の再発防止を目指す医療事故調査制度がスタートして一年たったが、年間の報告件数は当初予想の三割以下にとどまっている。肉親を失った遺族の心情に寄り添う仕組みにしたい。
「まだまだ、医療従事者が制度を理解しても、真剣に取り組んでもいないし、遺族側も疑問点をぶつけていくという風土になっていない」。「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」代表の永井裕之さん(75)はこう指摘する。
永井さんは十七年前、医療事故で妻を亡くした。東京都立広尾病院で、点滴中に誤って消毒液が投与された。病院側は事故を隠蔽(いんぺい)したが、最終的に関係者は刑事責任を問われた。
永井さんはその後、連絡協議会を立ち上げ、医療事故調査制度の実現を求めてきた。そして昨年十月、ようやくスタートした。
死亡事故が発生したら医療機関は第三者機関である「日本医療安全調査機構」に届け出なければならない。その後、自ら院内調査を行い、結果は遺族に説明。遺族は不服があれば、機構に調査を求めることができる、というのが主な仕組みだ。
しかし、事故の届け出件数は一年間で三百八十八件と、厚生労働省が想定していた年千三百~二千件を大幅に下回っている。
背景の一つに「医療事故とは何か」という定義の問題がある。調査の対象となるのは「予期しない死亡、死産」とされているだけで、具体例は示されていない。しかも、医療事故にあたるかどうかの判断を下すのは医療機関側だ。病院側が、面倒な院内調査や報告は避けたいと考えれば、おのずと届け出件数は少なくなる。
現在は複数の医療団体が独自のガイドラインを作成している。中には、薬の取り違えなど明らかな医療ミスが起こった場合でも、取り違えは一定の確率で起こるなどとして「予期できない死ではない」と主張している団体もある。
厚労省は六月、届け出基準の統一を目指し、医師会などによる協議会を設置することを決めたが、議論の難航は必至だ。
このほか、遺族が事故だと思っても病院などが認めない時に相談する窓口を第三者機関に設けることになった。ただ、第三者機関は遺族からの相談を医療機関に伝えるのみ。より中立性を高めるため、第三者機関が助言や指導ができるようにするべきではないか。
公正、透明で国民に信頼される制度に育てることが求められる。

出典:東京新聞TOKYO WEB

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