女子医大の特定機能病院の承認取消、通過点にすぎず

「特定機能病院の承認取消は当然。私たちが考えていたように、女子医大病院はずさんな医療を行っていたことを世の中に知ってもらいたい。これは通過点で、いったい何が行われていたのか、なぜ異常な量のプロポフォールが投与されたのかは、全く明らかになっていない。この点をどうしても解明したいが、まだ時間がかかるだろう」(男児の父親)

「命の危険がない手術でなぜ息子が死亡したのかを、明らかにしたいと思っていた。医療安全体制に重要な問題があるとされ、死亡に至った要因がようやく分かった。医療分科会では、『基本的なことができなかった』とされ、息子が亡くなってしまった。(女子医大病院を受診させたことは)非常に情けなく、息子に対して申し訳なく思っている。医療分科会で審議されたことは、ありがたく思っている」(男児の母親)

twmu(写真1)男児の両親の代理人を務める貞友義典弁護士。
厚生労働省の社会保障審議会医療分科会が4月30日、東京女子医科大学病院について、特定機能病院の「承認取消相当」という意見書をまとめたのを受け、プロポフォール投与事件で死亡した男児の両親は同省内で記者会見し、時に言葉を詰まらせながら、それぞれの思いを語った(『女子医大と群馬大、「取消相当という厳しい判断」』を参照)。会見からは、両親が求めていた承認取消が現実となったことで一つの区切りがついたという思いと、真相究明はいまだ途上という思いが交錯していることがうかがえた。

今回の承認取消は、2014年2月、頸部膿胞性リンパ管腫術後、人工呼吸中の小児には禁忌のプロポフォール投与を大量投与され、2歳10カ月の男児が死亡した事故が発端だ。その後、両親は、7月に特定機能病院の承認取消の要望書を、12月にはそれを補充する意見書をそれぞれ厚労省に提出していた。

会見に同席した代理人を務める弁護士の貞友義典氏は、事故に関係した医師をはじめ計10人を業務上過失致死容疑で訴える被害届が2014年5月に受理されていることを説明、「刑事手続きの問題について前に進むよう、警察と交渉していきたい」と語った。両親は今年2月には、麻酔科医ら5人を傷害致死罪で刑事告訴したが、不受理のままだ(『女子医大の医師ら5人、遺族が傷害致死罪で告訴』を参照)。医療分科会が特定機能病院の「承認取消相当」と判断した一番の根拠は、ガバナンスの不備であり、医薬品の安全管理体制や事故後の対応などに不備があったとした。一連の経緯を踏まえると、「いつ、誰が、なぜ」プロポフォールを大量投与したのかを明らかにすることが、両親が考える「真相究明」と言えよう。

 

 

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(写真2)男児の両親に同席した、「東京女子医大病院被害者連絡会」会長の東成志氏(左)、事務局次長の平柳利明氏(右)。
女子医大病院、承認取消は2回目
女子医大病院の特定機能病院の承認取消は2回目。初回は2001年3月に起きた、当時の同大の日本心臓血圧研究所(心研、現在は心臓病センター)の医療事故がきっかけ。本事故で、当時12歳の患者が心房中隔欠損症と肺動脈狭窄症の治療目的で手術を受けたものの、脱血不良で脳障害を来し、術後3日目に死亡した。2002年9月から、承認が取り消されていた(『院内事故調が生んだ“冤罪”、東京女子医大事件』を参照)。再承認されたのは、5年後の2007年9月だ。

女子医大病院は2014年2月の事故後、7月には日本医学会長の高久史麿氏を委員長とする、内部統制にかかる第三者評価委員会を設置、同委員会は9月に報告書を公表(『「女子医大、重大な危機にある」』を参照)。それを基に、「大学再生計画報告書」をまとめ、厚労省に提出していた(『「女性教授、2020年までに3割」、東京女子医大』を参照)。再生への取り組みの途上で、承認取消の処分に至った。

会見で、男児の父親は、「そもそも耳鼻咽喉科医による術前の説明で、術後の人工呼吸器や麻酔薬の使用などについて説明がなかった。インフォームド・コンセントが不十分だった」と述べ、結果的にプロポフォールが大量投与され、心電図や尿に異常が出たものの、適切な対応がなされなかったと改めて問題視。「誰一人として責任を持って術後の管理を行っていなかった。容体が悪化している息子を不安に思い訴えたが、主治医はICUの医師に問い合わせることも、添付文書を調べることもなく、『安全な薬である』と言い、全く訴えを取り上げなかった」などと語り、悔しさをにじませた。

今後、女子医大病院に求める対応を聞かれた父親は、「一番は患者に向き合ってもらいたい。本当にあの病院が立ち直りたいのであれば、膿を出し切って、患者のことを一番に考えれば、いい方向に進むのではないか」と述べつつ、「正直、今まで1年以上、接してきて、全く誠意がないので、立ち直ることは無理なのではないかとあきらめている」とも付け加えた。母親も、「特定機能病院でなくても、安全であることが病院の基本。なぜ基本さえできていなかったのか、息子の治療にかかわった医師、看護師、薬剤師は何をしていたのか。管理体制はどうだったのかを1点の曇りもなく明らかにして、その上で責任を取ってもらいたい」と述べ、真相究明を引き続き求めていくとした。

承認取消理由、「前回と同じ」
30日の会見には、女子医大病院で医療事故に遭遇した患者の遺族らで構成する「東京女子医大病院被害者連絡会」の会長を務める東成志氏、事務局次長の平柳利明氏も出席した。

東氏は、「医療行政として妥当な判断。医療安全体制が確保されず、チーム医療が機能していなかった上、患者家族に必要な説明を行っておらず、管理者が十分に責務を果たせなかったことを挙げている。2002年にも承認が取り消されているが、今回の理由とほぼ同じだった。2007年に再承認されているが、当時から何も改善されていなかったのではないか。再承認の際、何を審議したのか、本当に改善していたのかと疑問に思う。その後の厚労省の立入検査等も十分になされていなかったのではないか」と疑問を投げかけた。「女子医大はセンター制を取り、組織全体として機能していない。この点について厚労省と文部科学省が連携をしてメスを入れるのは有意義なことではないか」(東氏)。

2001年の事故で死亡した女児の父親である平柳氏は、「承認が取り消されて当然、と思わざるを得なかった」と語り、「(診療行為についての)カルテの未記載などがあり、今後は、保険医療機関の問題がある。厚労省保険局による調査が行われ、それなりの処分が行われるかを注視していきたい」との見方を示した。

出典:医療維新

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