医療事故 届け出、病院間で差 調査制度1年

10月で開始から1年を迎えた医療事故調査制度。調査の仕組みができたことで明らかになる医療過誤がある一方、届け出や調査内容について病院間の差が大きいなど課題も多く、医療事故の遺族からは「信頼できる制度となるよう運用改善を続けてほしい」との声が上がっている。

「医療事故かもしれない。病理解剖をしたい」。川崎市の増田渉さん(65)は昨年10月、医師からこう告げられ、衝撃を受けた。

妻(当時71歳)が自宅で頭を打って動けなくなり、市内の病院に救急搬送された。検査の結果、心停止などで死亡の危険がある低カリウム血症が判明。体内にカリウムを注入する「中心静脈カテーテル挿入」という緊急処置が行われた。処置後間もなく血圧が低下し始め3日後死亡した。

病院は外部の第三者を入れた調査を実施。14ページの報告書をまとめ今年3月、増田さんら遺族に説明した。カテーテル挿入の際に、椎骨(ついこつ)動脈を損傷して生じた出血性ショックが死因とされた。

増田さんは「制度がなければ、ここまでの調査が行われ、情報が開示されることもなかっただろう」と一定の評価をするものの「病院側の視点に立った報告で十分に納得できるものではない」と話す。報告書では、経験の少ない研修医が緊急処置を担当した経緯や理由などに触れられていないためだ。

制度に基づき、増田さんは先月、厚生労働省指定の第三者機関「日本医療安全調査機構」にも調査を依頼した。しかし、期待できるかどうか懸念もある。

NPO法人「ささえあい医療人権センターCOML」理事長の山口育子さんのもとには「病院が事故として届け出てくれない」との相談が寄せられる。

夫を亡くしたある女性は、病院に届け出を求めたが「過失の有無がはっきりしないので届け出ない」と説明された。制度では本来、過失の有無に関わらず届け出ることになっているが、病院が誤って解釈していた。

医療事故で母親を亡くした「医療の良心を守る市民の会」事務局長の川田綾子さん(45)は「ペラペラの報告書をまとめて終わりとする病院もあり、取り組みに大きな差がある。調査は病院やそこで働く医療者のためでもあることも踏まえて対応してほしい」と話す。【山田泰蔵、熊谷豪】

出典:毎日新聞

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