肺手術ミスで死亡 新小倉病院側が和解

 北九州市小倉北区の新小倉病院で肺の手術を受けた男性(当時23)=福岡県行橋市=が死亡し、両親が病院を運営する国家公務員共済組合連合会に損害賠償を求めた訴訟が26日、福岡地裁小倉支部で和解した。両親の代理人弁護士によると、病院側がミスを認め、和解金として数千万円を支払う。

 訴状によると、男性は高校生の頃から肺気胸を繰り返し、2014年2月に同病院で左の肺の一部を摘出する手術を受け、直後に出血性ショックで死亡。両親は、不適切な処置で出血を引き起こすなどして死亡させたとして、16年10月に慰謝料など約1億円余りの支払いを求めて提訴した。病院側と面談した際、過失を認めなかったため訴訟に踏み切ったという。

 地裁小倉支部は今年1月、死因となった大量出血について、医師が手術器具を使う際に注意を怠り、肺から心臓にかけての血管を傷つけたことが原因と認定。和解を提案していた。

 両親は代理人を通じて「手術のあと、正直に認めて謝罪してほしかった。息子には今も帰って来てほしいが、かなわないなら病院を信じている患者たちにきちんと向き合って診療してほしい」とコメントした。

 病院側は注意を怠ったことを認め、渋谷恒文院長が「ご本人及びご遺族に改めて深くおわび申し上げるとともに、今回の事故を教訓として一層、医療安全に取り組み、今後も地域医療に貢献して参る所存です」とのコメントを出した。(新屋絵理)

出典: 朝日新聞デジタル

青森県立中央病院「医療器具使用ミス」で死亡と提訴

 青森県立中央病院(青森市)で2017年10月、下北地方の70代男性が気胸となり容体が急激に悪化して死亡したのは医師が医療器具の使用を誤ったからだとして、男性の長男が8日までに、病院の医師2人と県に1200万円の損害賠償を求める訴えを青森地裁に起こした。
 訴状によると、男性は肺の細胞が硬化する「特発性肺線維症」が悪化した疑いで17年9月に入院。数日後にたんが絡んだため気管切開を受けた際、たんを吸引するチューブを挿入するためのガイドワイヤが右肺に当たり、気胸となった。男性は容体が急変して約10日後に死亡した。
 遺族側は、ワイヤによる処置に当たった初期研修医と指導医が、器具使用時の注意事項を守らなかったため死亡したと主張している。
 同病院は「患者の冥福を祈るとともにご家族には心よりお悔やみ申し上げる。訴えの内容はわれわれの認識と異なると考えている」としている。

出典: 河北新報

検査確認ミス、患者死亡=がん発覚遅れ-富山大病院

富山大学付属病院(富山市、林篤志院長)は16日、がんの手術を受けた患者の検査結果の確認不足により、新たながんの発覚が遅れるミスがあったと発表した。患者はその後、新たながんが進行して死亡した。
 同病院によると、患者は泌尿器科でがんの手術を受け、定期的な検査を受けていた。昨年春に実施したコンピューター断層撮影(CT)検査で、放射線科の医師が新たながんの可能性を電子報告書に記載したが、泌尿器科の担当医はそれに気づかず、専門の診療科に紹介するなどの手続きを行わなかった。
 数カ月後、検査で指摘されていた新たながんが進行した状態で発見され、患者は治療を続けたが今年春、新たながんのため亡くなったという。

出典: JIJI.COM

手術で心臓を損傷、患者死亡 京大病院、医療事故を公表

 京都大学病院は26日、心臓の手術を受けた60代後半の女性患者が死亡する医療事故があったと発表した。手術中に使用したカテーテルを引き抜く際に心臓を損傷し、意識が回復しないまま4カ月後に亡くなったという。

 京大病院によると、患者は大動脈弁狭窄(きょうさく)症で今年6月、人工の弁に置き換える手術を実施した。心臓の機能を詳しく確認するため、首の辺りから肺動脈まで届くカテーテルを入れて手術を開始。人工心肺につなぎ、弁を置き換えた。手術後にカテーテルを動かしたところ、体内で多量に出血。すぐに開胸する手術をしたが、心臓が大きく傷ついていたという。

 京大病院は調査委員会を設置。調査委は、手術で心臓に入れた別の管を縫合した際に肺動脈カテーテルも一緒に縫い込んでしまったと推定。一方で、「縫い込みに気付くのは難しい。類似例の発生防止のためにルールが必要」とした。

 稲垣暢也(のぶや)病院長は「肺動脈カテーテルの使用に関するルールに不十分な点があり、患者さんがお亡くなりになられたことを大変重く受け止めている。患者さんのご家族に深くおわび申し上げます」と話した。また、「当時の医師の判断に過ちがあったかについて、そこまでは申し上げられない」と述べた。(後藤一也、合田禄)

出典: 朝日新聞デジタル

医療ミスで1千万円支払いへ 入院中の80代男性死亡

 大分県国東市の市民病院で2017年7月、治療を受けた同市内の80代男性が、医療ミスが原因で死亡していたことが4日、わかった。病院側はミスを認め、遺族に和解金や損害賠償金として1千万円を支払う議案を11日開会の市議会に提案する。

 病院によると、男性は尿路感染症や脱水症の疑いで17年7月19日に入院。21日午前11時ごろ、治療のため30代医師が静脈に点滴用カテーテルを挿入したところ、左肺に気胸を起こして呼吸不全や循環不全となり、意識が戻らないまま同日午後4時ごろに死亡した。カテーテルの針の先が静脈を突き破って、肺に達したとみられる。

 遺族が同年7月、「医療事故調査委員会にかけて」と要請。病院側は翌月に委員会を設置し、医療事故調査・支援センター(東京)へも届けた。17年8月28日~18年8月2日に計5回、大分大医学部の平松和史・医療安全管理部教授ら病院外部を含む12人と原因や再発防止策を調査。病院は医療ミスを認め、野辺靖基・市民病院事業管理者兼院長は昨年末に遺族に謝罪した。和解金は市民病院事業特別会計から支払われる。(加藤勝利)

出典:朝日新聞デジタル

「医療事故調査、適正な運用を」 広尾病院事故20年

東京都立広尾病院(東京・渋谷)の点滴誤投与事故から11日で20年。事故ではミスの疑いを十分に調査しない病院の対応が明らかになり、医療事故調査制度が発足するきっかけとなった。だが創設3年が過ぎても医療機関側の届け出は低迷、遺族との対立も続く。広尾病院で妻を失った男性は「せっかくできた制度。適正に運用できるようにしてほしい」と求める。

都立広尾病院事故から20年を検証するシンポジウムで事故調査制度の課題を指摘する永井裕之さん(10日、東京・文京)

都立広尾病院事故から20年を検証するシンポジウムで事故調査制度の課題を指摘する永井裕之さん(10日、東京・文京)

「医療事故は他人事ではない」。20年前の事故で妻の悦子さん(当時58)を突然失った永井裕之さん(78)は10日、都内で開かれた集会で約150人の参加者に訴えた。

悦子さんは左手中指関節の手術を受けた翌日の点滴で容体が急変、死亡した。看護師が誤って消毒液を投与したためだった。院長は「誤投与の疑いが強い」と認めながら、約1週間後に「断定できない」と態度を変え、十分に調査せず警察へも届け出なかった。

永井さんが不信感を強める中、3月に事故隠しの疑いが報じられた。1月には横浜市立大病院で患者取り違え事故が起きており、1999年は対策が本格化する”医療安全元年”となった。

「原因を調査し、再発防止につなげる組織が必要」。永井さんら遺族などを医学会も後押しして2015年10月に医療事故調査制度が創設された。だが医療事故調査・支援センター(東京・港)への医療機関の届け出件数は年400件弱のみ。当初は年1300~2000件とみられた。

都立広尾病院事故から20年を検証するシンポジウムで事故当時を振り返る永井裕之さん(右)(10日、東京・文京)

都立広尾病院事故から20年を検証するシンポジウムで事故当時を振り返る永井裕之さん(右)(10日、東京・文京)

10日の集会で永井さんは「小さく生んで大きく育てるつもりだったが、小さいままだ」と指摘。予期せず死亡した患者の遺族から「医療機関は『合併症』としてミスを否定して届け出ない」という声が後を絶たない。

永井さんは「交通事故は約20年で半分以下に減ったが、医療事故はいまだ何件起きているのか分からない」と嘆く。現在はセンターへの事故調査の届け出は医療機関のみ。永井さんは「センターが遺族の相談から医療機関に調査開始を指導するなど制度を見直す必要がある」と要望している。

出典:日本経済新聞

2019年1月末までに1260件の医療事故、73.9%で院内調査完了―日本医療安全調査機構

 今年(2019年)1月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は26件。2015年の医療事故調査制度発足から累計1260件の医療事故が報告され、うち73.9%の931件で院内調査が完了するなど、医療機関の調査スピードはさらに向上している。ただし、制度の重要課題である「一般国民への制度周知」がまだ十分に進んでいない―。

 日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が2月5日に、こういった状況を公表しました(機構のサイトはこちら)。

2019年1月の医療事故報告件数、内科と循環器内科で4件、外科で3件など

2015年10月から、すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)に、院長などの管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が課せられました【医療事故調査制度】。医療事故の原因を調査・分析して「再発防止策」を構築し、医療現場に広く共有していくことを目的とする仕組みです。

センターでは、重大事故について詳細を分析し、これまでに(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析—という6つの再発防止策を公表しています(7つめの再発防止策が公表されており、別稿でお伝えします)。

 医療事故調査制度の流れは、次のように整理できます(関連記事はこちら)。

▼医療事故の発生を確認した管理者は、速やかにセンターへ事故発生の旨を報告する

▼事故が発生した医療機関が自ら事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する

▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)

▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る

医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける
医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける

 我が国唯一のセンターに指定されている日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を迅速に公表しています(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2019年)1月には、新たに26件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1260件となりました。

 今年(2019年)1月に新たに報告された事故は、すべて病院からでした。制度発足からの累計では、病院から1188件(事故全体の94.3%)、診療所から72件(同5.7%)となっています。

医療事故の現況(2019年1月)1 190205

 今年(2019年)1月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼内科4件▼循環器内科4件▼外科3件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見てみると、▼外科210件(同16.7%)▼内科156件(同12.4%)▼消化器科105件(同8.3%)▼整形外科105件(同8.3%)―などという状況です。

 

センターへの相談件数は累計6400件、「国民の制度への理解」が依然、重要課題

 センターに報告しなければならない医療事故は、上述したように、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではなく、院長などの管理者が▼予期せず▼医療に起因し、または起因すると疑われる—事故に限定されます。例えば、火災などに巻き込まれ瀕死の状態で救急搬送された患者が、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期」され、そもそも医療事故に該当しないと考えられるため、センターへの報告は必要ありません。ただし、そうした患者であっても、明らかな処置上のミスなどがあり通常の過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」ものとしてセンターへの報告が必要となります。

 この点、医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのか?」という疑問が、また、初めて事故を報告する際には「センターへどのように報告すればよいのか?」との疑問も生じることでしょう。一方、遺族側には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのか?」との疑念がわくケースもあるでしょう。

 こうした疑問・疑念の放置は、制度の信頼を失墜させてしまうため、センターでは相談対応を行っています。今年(2019年)1月には、新たに150件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では6400件にのぼっています。

 今年(2019年)1月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から55件▼遺族などから83件▼その他・不明12件―となっています。

 医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので27件(医療機関からの相談の41.5%)。次いで「報告すべき医療事故か否かの判断」が16件(同24.6%)、「院内調査に関するもの」が14件(同21.5%)となりました。

医療事故の現況(2019年1月)3 190205

 一方、遺族などからの相談内容では、「医療事故に該当するか否かの判断」が70件(遺族などからの相談の72.2%)にのぼっています。こうした該当性に関する相談の中には、「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれており、一般国民への、制度浸透がやはり大きな課題である状況に変化はないようです。

 
医療機関サイドが、迅速かつ正しく医療事故を報告したとしても、一般国民が制度を正しく理解し、信頼してくれなければ制度の基盤が揺らいでしまいます。医療や制度等に十分な知識のない一般国民にも、医療事故調査制度が理解しやすい形で周知していくことが求められます。
 

センターへの調査依頼は新たに4件、全85件の依頼中13件でセンター調査が完了

 医療事故調査制度の目的は「再発防止」です。このため、まず事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行ことが求められます。自院の体制やプロセスを検証しなおすことで、「院内の課題」などを発見・確認し、そこから防止策を「自主的に構築していく」ことが再発防止の近道と考えられるためです。

医療事故の現況(2019年1月)2 190205

 今年(2019年)1月に新たに院内調査が完了した事例は23件で、制度発足からの累計では931件となりました。これまでに報告された全1260件の医療事故のうち73.9%(前月から0.3ポイント向上)で院内調査が完了しています。院内調査のスピードはさらに増しており、医療機関サイドの努力や積極的な事項防止に向けた取り組みが確認できます。
 
 
 なお、遺族側には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅い。時間稼ぎをしているのではないか」との思いもあると考えられます。また診療所や助産所など小規模施設では「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制あり)。

 そこでセンターでは、「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制を整備しています。ただし、「センターが最初から調査する」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されたのか」という観点での調査が中心となります。

 今年(2019年)1月に、センターになされた調査依頼は4件で、遺族から3件、医療機関等から1件でした。制度発足からの累計調査依頼件数は85件(遺族から68件・80.0%、医療機関から17件・20.0%)です。センター調査の進捗状況を見てみると、▼調査終了が13件(前月と変わらず)▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が68件▼院内調査結果報告書検証準備作業中が2件▼医療機関における院内調査の終了待ちが2件—という状況です。

出典:メディ・ウォッチ

医療ミスで植物状態 千葉大に1.5億円の賠償命令判決

 千葉大医学部付属病院(千葉市)で形成外科手術を受けた埼玉県の男性(26)と両親が、術後の処置のミスで重い障害を負ったとして千葉大に約3億2千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が10日、東京地裁であった。佐藤哲治裁判長は看護師の注意義務違反を認め、約1億5千万円の支払いを命じた。

 判決によると、男性は2012年8月、上あごと下あごのズレを矯正する手術を受けた。この際、気管を切開して呼吸用チューブを取り付けられたが、手術の4日後、チューブにたんが詰まって窒息状態になった。異変に気づいた女性看護師2人が5分ほど吸引したが改善せず、低酸素脳症による意識障害になった。

 判決は、看護師が呼吸の回数や脈拍を確認する義務があったにもかかわらず、男性の様子を十分に把握していなかったと指摘。医師を呼ばずに吸引を続けたのも不適切で、「早く処置をしていれば障害は生じなかった」と認定した。

 男性は今も植物状態で、会見した父親(55)は「病院は判決を重く受け止め、息子の治療に真剣に取り組んでほしい」と話した。病院は「判決を確認できていないのでコメントは控える」とした。(北沢拓也)

出典:朝日新聞デジタル

熊大病院、がん検査結果を放置 患者の進行がん発見遅れる

 熊本大病院(熊本市)は21日、がんの疑いがある県内の60代の男性患者に実施した検査の結果を1年2カ月間放置したため、進行がんの発見が今年5月まで遅れる医療ミスをしたと発表した。

 同病院によると、見つかったのは膀胱[ぼうこう]がんで、最も病状が進んだ「ステージⅣ」。現在、同病院で抗がん剤治療を受けている。

 男性は2012年に同病院で前立腺がんの手術を受けた。17年2月の尿検査で再びがんが疑われたため、30代の男性担当医師=今年4月から別の病院に勤務=が、病理部に尿に含まれる細胞の検査を依頼した。しかし担当医師が失念し、検査結果を確認しなかったという。

 18年4月、病院内の別の部署からの指摘で結果の放置が判明。結果を確認したところ、新たながんが疑われたが、男性に連絡が取れなかった。結局、5月に男性が血尿が出たとして同病院を再受診し、膀胱がんと分かった。男性は6月に手術を受けた。

 同病院によると、男性と家族は「今は前を向いて治療に専念したい」と話しているという。男性側への補償は今後、話し合う。

 記者会見した谷原秀信院長は「男性やご家族に多大な迷惑をお掛けした」と謝罪した上で、「医師個人と組織・システムの両方に問題があり、再発防止に努める」と話した。(太路秀紀)

出典:熊本日日新聞

2018年11月までに1200件の医療事故、72.8%で院内調査が完了―日本医療安全調査機構

 今年(2018年)11月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は31件。医療事故調査制度発足から累計1200件の医療事故が報告され、うち72.8%の874件で院内調査が完了するなど、医療機関の調査スピードがますます向上している。ただし一般国民は、本制度を必ずしも十分には理解しておらず、制度の浸透が依然として大きな課題である―。

 日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が12月7日に、こういった状況を公表しました(機構のサイトはこちら)。

2018年11月の医療事故報告件数、整形外科で4件、消化器科等や3件

2015年10月から、すべての医療機関には、院長など管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が課せられました(医療事故調査制度)。事故の原因を調査・分析して「再発防止策」を構築し、医療現場に広く共有していくことを目的とする仕組みです(関連記事はこちら)。

センターでは、重大事故について詳細を分析し、すでに(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析—の6つの再発防止策を公表しています。

 医療事故調査制度の流れは、次のように整理できます(関連記事はこちら)。

▼医療事故の発生を確認した管理者は、速やかにセンターへ事故発生の旨を報告する

▼当該医療機関で事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する

▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因について遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)

▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る

医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける
医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける

 我が国唯一のセンターに指定されている日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を迅速に公表しています(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2018年)11月には、新たに31件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1200件となりました。

 今年(2018年)11月に新たに報告された事故の内訳は、病院から30件、診療所から1件となりました。制度発足からの累計では、病院から1129件(事故全体の94.1%)、診療所から71件(同5.9%)となっています。

医療事故の現況(18年11月)1 181207

 今年(2018年)11月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼整形外科4件▼消化器科3件▼循環器内科3件▼心臓血管外科3件▼脳神経外科3件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見ると、▼外科203件(同16.9%)▼内科145件(同12.1%)▼消化器科103件(同8.6%)▼整形外科102件(同8.5%)―などという状況です。

 

センターへの相談件数は累計6098件、依然「国民の制度への理解」が重要課題

 センターに報告しなければならない医療事故は、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではありません。院長などの管理者が▼予期しなかった▼医療に起因し、または起因すると疑われる—事故に限定されます。例えば、火災などに巻き込まれ瀕死の状態で救急搬送された患者が、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期」され、そもそも医療事故に該当しないと考えられるため、センターへの報告は必要ありません。ただし、そうした患者であっても、明らかな処置上のミスなどがあり通常の過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」ものとしてセンターへの報告が必要となります。

 この点、医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するだろうか?」という疑問が生じるケースがあります。また、初めて事故を報告する際には「センターへ、どのように報告すればよいのだろうか?」との疑問も生じることでしょう。一方、遺族側には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念がわくケースもあるでしょう。

 こうした疑問・疑念の放置は、制度の信頼を失墜させることにつながるため、センターでは相談対応を行っています。今年(2018年)11月には、新たに182件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では6098件にのぼっています。

 今年(2018年)11月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から77件▼遺族などから88件▼その他・不明17件―となっています。

 医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので38件(医療機関からの相談の49.4%)。次いで「院内調査に関するもの」が21件(同27.3%)、となりました。「報告すべき医療事故か否かの判断」は11件(同じく14.3%)にとどまっており、医療現場に制度が相当程度浸透していることが伺えます(関連記事はこちらこちら)。

医療事故の現況(18年11月)3 181207

 一方、遺族などからの相談内容に目を移すと、依然として「医療事故に該当するか否かの判断」がほとんどで、75件(遺族などからの相談の85.2%)となっています。また、こうした該当性に関する相談の中には、「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれており、一般国民には、制度の内容が十分には浸透していない状況が伺えます。

 
いかに「迅速かつ正しく医療事故を報告する」など、医療現場が適切な制度運用を行ったとしても、一般国民からの理解・信頼がなければ制度の基礎が揺らいでしまいます。一般国民に医療事故調査制度を分かりやすく周知していくことが喫緊の課題と言えるでしょう。
 

センターへの調査依頼は新たに2件、全78件中11件でセンター調査が完了

 前述したように、医療事故調査制度の目的は「再発防止」にあります。このため、まず事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行ことが求められます。自身で体制やプロセスを調べることで、「院内の課題」などを発見・確認し、そこから防止策を「自主的に構築していく」ことが再発防止の近道と考えられるためです。

医療事故の現況(18年11月)2 181207

 今年(2018年)11月に新たに院内調査が完了した事例は23件で、制度発足からの累計では874件となりました。これまでに報告された全1200件の医療事故のうち、72.8%で院内調査が完了していることになります。院内調査のスピードはさらに増加しており、医療機関側の努力、積極的な姿勢が伺えます。

 
 ところで、遺族の中には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅い。時間稼ぎをしているのではないか」と感じる人もいることでしょう。またクリニックなど小規模医療機関等では「自院で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制もある)。

 そこで、センターでは、「遺族や医療機関からの調査依頼を受け付ける」体制も整備しています。ただし、「センターが一から調査する」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されたのか」という観点での調査が中心となります。

 今年(2018年)11月に、センターになされた調査依頼は2件で、医療機関から1件、遺族から1件という内訳です。制度発足からの累計調査依頼件数は78件(遺族から62件・79.5%、医療機関から16件・20.5%)です。進捗状況を見ると、▼センター調査終了が11件(前月から2件増加)▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が65件▼院内調査結果報告書検証準備作業中が1件▼医療機関における院内調査の終了待ちが1件—となっています。

出典:メディ・ウォッチ