医療事故調査制度で過失認定 病院反発、遺族が提訴

胸腔(きょうくう)鏡手術のミスで女性が死亡したとして、愛知県東浦町の遺族が八月、刈谷豊田総合病院(同県刈谷市)側に六千五百万円の損害賠償を求める訴訟を名古屋地裁に起こした。十月で開始一年を迎える国の医療事故調査制度のモデル事業を活用、さまざまな医療ミスが認定されたが、賠償額などで病院側と隔たりが生じ、遺族側が提訴に踏み切った。専門家は「病院側が調査結果に真摯(しんし)に向き合わないと遺族の理解を得られず、制度の利用も進まない」と警鐘を鳴らす。
訴状によると、亡くなった稲垣絹江さん=当時(75)=は二〇一三年十一月、トヨタグループや刈谷市などが運営する同病院で胸の腫瘍を摘出する胸腔鏡手術を受けた。担当医が誤って大静脈を傷つけ、輸血措置も不十分だったため、大量出血による脳症や多臓器不全で半月後に死亡した。
原告代理人弁護士によると、夫の寛治さん(81)ら遺族は、厚生労働省が昨年十月にスタートさせた医療事故調査制度の前身に当たるモデル事業を利用。厚労省が指定する第三者機関の日本医療安全調査機構(東京)と病院側が共同で調査し、手術ミスから事前の検査・説明不足まで幅広く認める結果が出た。
病院側は調査終了後の昨年二月、寛治さんらへの賠償について「顧問弁護士や保険会社と相談したところ、百万円にも満たないと言われた」と説明。病院独自の判断として口頭で五百万円を提示したが、その後の交渉では法的過失を一切認めなかったという。
刈谷豊田総合病院と代理人弁護士は取材に「現時点で話せることはない」とコメントしている。
<医療事故調査制度> 医療事故への社会的関心が高まる中、医療法に基づき全国約18万の医療機関全てを対象に昨年10月に始まった。診療中の予期せぬ死亡事故について、日本医療安全調査機構への報告や院内調査などが義務付けられている。モデル事業は、制度開始の前段階として2005年から昨年まで東京や愛知など12都道府県で実施。病院側が主体となる調査手法や遺族への結果説明など共通点が多い。

出典:東京新聞

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