処方薬の濃度738倍で患者死亡 院内製剤の医療ミス

2017年10月3日の各種マスコミによると、京都大医学部付属病院で外来通院して治療を受けていた60歳代の女性患者が、9月26日に自宅で同院より処方された「セレン製剤」を自宅で点滴したのちに、背中の痛みを訴え、翌日朝に同院を受診し、諸検査を施行したが異常は認めなかったが、その後、容態が急変し、同日午前中に鬼籍に入ったと報じている。

同院では処方されずに残っていたセレン製剤を調査したところ、医師が処方箋を提出した数値よりも実に738倍の高濃度である41700μg/mLであったことが判明。同院では、9月25日にも別の患者でセレン製剤を輸液と混ぜる際に変色したことを確認しているが、原因を調査中とのことで、死亡した女性患者には対応できず不幸な事件が発生してしまった。

薬剤師による院内輸液製剤の調整は慎重に行う必要がある

セレン製剤は市販されていないため、医療施設では医師の要望により「薬剤部」が院内調整を行っている。セレン注射剤の場合には、亜セレン酸ナトリウム66.6mgと注射用水400mLを滅菌した器具を使用し、高圧蒸気滅菌する調整法が広く用いられている。その後、冷所保存し、必要に応じてセレン注射剤を輸液製剤に注入して患者に点滴を行うことになる。

この事件では、亜セレン酸「66.6mg」を「66.6g」と秤量ミスした可能性も懸念されている。京大病院では、セレン製剤を2名の薬剤師で調整していたとのことであったが、ダブルチエックを行ったにもかかわらず、このような事故が発生したことは残念でならない。

セレンの生体内での働き

セレンはミネラルの一種で、体内を維持するための必須微量元素のひとつである。生体内で細胞膜に含まれる不飽和脂肪酸が酸化されて過酸化脂質に変化して動脈硬化を誘発するが、セレンはこのような生体内の酸化を抑制する働きのある「グルタチオンペルオキシダーゼ」を活性化させる中心的な役割を果たす。

また最近では、生体の老化を防止し、免疫機能を高めることにより、がんの予防効果も存在するため、がんの標準療法と併用してセレン製剤の治療的役割が注目されている。

セレンは海藻類、魚介類、肉類、卵黄に多く含まれている。これらの食物を十分摂取していれば、セレンについての過不足は起こらない。

 

セレンの欠乏症と過剰症について

セレン欠乏症になると、筋肉痛、不整脈、爪の変色、貧血、心筋障害、動脈硬化、甲状腺の機能低下などを誘発される。経口摂取ができず、高カロリー輸液のみで栄養を補っている患者では、特に欠乏しやすい。京大病院の症例でも、セレンが欠乏し、上記の如き症状を呈したため、セレン注射剤が含まれた点滴を行ったものと思われる。

セレン過剰症では、まず脱毛、嘔気、嘔吐、下痢、脱力感を訴えることが多い。さらに病状が増悪すると、吐血、急性腎不全、肝機能障害、神経障害を引き起こすことになる。京大病院における女性患者の背中の痛みは、心筋障害が誘発されたことによるものと推察される。

また最近のサプリメント、特に外国からの輸入品では、含有成分量は不確かな製品も見受けられるため、過量服用しないよう心がけることが必要である。

医療スタッフの判断ミスが重大な患者への悪影響を及ぼす

急性薬物中毒は、向精神薬や化学薬品などの大量服用により引き起こされ、個々の患者およびそれにかかわる医療スタッフ、特に治療する医師がともに密接に接することにより、未然に対策を講じることも可能である。

しかし、院内製剤の調整に関する医療ミスは、患者サイドでは防ぎようがないのが現状である。医療施設での製剤の調整工程やスタッフの厳重な教育・管理が必要であろう。

出典:HEALTH PRESS

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