大口病院殺人 消毒液が点滴に混入か ゴム栓部分から注入?

横浜市神奈川区の大口病院で点滴に異物が混入され、入院患者の八巻(やまき)信雄さん(88)が中毒死した事件で、中毒の原因となった界面活性剤は消毒液に使われる成分だったことが、捜査関係者への取材で分かった。また、点滴袋には目立った穴や破れが見当たらないことから、神奈川県警は、注射器を使って点滴袋とチューブをつなぐゴム栓部分から注入された疑いもあるとみて調べている。
県警によると、八巻さんが入院していた四階のナースステーションに、消毒液と注射針が保管されていた。界面活性剤は洗剤や化粧品など広く用いられているが、点滴袋に混入されたのは、消毒液に含まれている種類だった。高濃度で血管に入ると中毒を起こし、死に至ることもあるが、薬局でも購入できる。
県警によると、ゴム栓は、点滴袋と一体となっており、通常は外せないようになっている。また、針で刺してもゴムが収縮して、痕跡は目立たないとみられるという。八巻さんの点滴袋に明らかな穴や破れはなく、県警は、点滴袋を解析して、詳しい混入方法を調べる。
二十日午前、担当の看護師が、八巻さんの死亡後、点滴袋内にわずかな気泡を見つけ、異常が分かった。八巻さんは十四日に入院し、寝たきり状態で、投与されていた点滴は栄養剤だった。点滴は十七日からステーション内に保管されており、十九日午後十時ごろに交換されていた。
病院の四階では十八日に点滴を受けていた八十代の男性二人が、二十日には九十代の女性が死亡。この男女三人は病死と診断されたが、県警は三人についても司法解剖して詳しい死因を調べている。一方、大口病院は十月一日まで休診する。
◆「不審者チェックに限界」 医療関係者らに戸惑い
大口病院で点滴に異物が混入され患者が死亡した事件を受け、医療関係者らの間に戸惑いが広がっている。神奈川県警は何者かによる意図的な混入とみているが、医療機関は人の出入りが多く、悪意ある人物の行為を防ぐのは極めて難しいためだ。
「薬品取り違えなど医療ミスへの対策はできても、故意による混入は防ぎきれない」。中部地方の病院に勤める三十代の女性看護師は打ち明ける。
一九九九年の横浜市立大病院の手術患者取り違え事件など、九〇年代後半以降に重大な医療過誤が相次いで明らかになり、社会問題化。ミスをなくそうと、ヒヤリ・ハット事例の共有など医療界挙げての取り組みが進められてきた。
しかし、今回の事件は洗剤などの成分である界面活性剤が点滴に混入されており、ミスが原因とは考えにくい。
食い止める方法はないのか。医療ガバナンス研究所(東京)の上昌広理事長は「医療機関は、夜間でも患者の家族など人の出入りがあり、不審者のチェックには限界がある。内部の人間の仕業だった場合はなおさら難しい」と指摘する。
費用面も課題だ。多くの医療機関は経営が厳しい中、ぎりぎりの人数で夜勤を回し、増員は簡単ではない。上理事長は「故意犯を防ぐためにどれだけコストをかけられるのか。医療安全の在り方が問われる事件だ」と話す。
監視カメラによるチェックはどうか。勤務医らの団体「全国医師連盟」の中島恒夫代表理事は「多くのカメラが設置されれば患者のプライバシーを侵害する恐れが高まる」と慎重だ。
職員に悪影響を与える可能性にも言及。「医療現場はスタッフ同士の信頼関係で成り立っている。ぎすぎすした雰囲気になれば、診療に影響も出かねない」と懸念を示した。

出典:東京新聞

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