医療事故調査制度

2019年5月末までに1380件の医療事故、日本医療安全調査機構

 今年(2019年)5月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は38件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計1380件の医療事故が報告され、うち74.9%の1034件で院内調査が完了している。制度の課題としては「一般国民側の正しい理解」である―。

 日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」は6月7日に「医療事故調査制度の現況報告(5月)」を公表し、こうした状況を明らかにしました(機構のサイトはこちら)。

2019年5月の医療事故報告件数、整形外科・循環器内科で各5件

 2015年10月から、すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)に、院長などの管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が課せられています【医療事故調査制度】。事故の原因・背景を調査・分析して「再発防止策」を構築し、医療現場に広く共有していくことを目的とする制度です(関連記事はこちら)。

すでにセンターでは重大事故について詳細を分析した結果を提言としてまとめ、順次公表しています(2019年6月までに9つの提言)。
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析
(8)救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析
(9)入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析

 
 医療事故調査制度の概要は、次のように整理できます(関連記事はこちら)。

▼医療事故の発生を確認した管理者(院長など)は、速やかにセンターへ事故発生の旨を報告する

▼事故が発生した医療機関が自ら事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する

▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)

▼センターで事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る

医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける
医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける

 我が国唯一のセンターに指定されている日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を迅速に公表しています(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2019年)5月には、新たに38件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1380件となりました。

 今年(2019年)5月に新たに報告された事故38件の内訳は、病院から37件、診療所から1件でした。制度発足からの累計では、病院から1303件(事故全体の94.4%)、診療所から77件(同5.6%)となっています。

医療事故の現況(19年5月)1 190607

 今年(2019年)5月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼整形外科:5件▼循環器内科:5件▼外科:4件▼内科:4件―などで多くなっています。制度発足からの累計では、▼外科231件(同16.7%)▼内科170件(同12.3%)▼消化器科114件(同8.3%)▼整形外科112件(同8.1%)―などという状況です。

 

センターへの相談件数は累計7099件、国民の正しい理解が依然として課題

 センターへの報告が義務付けられている医療事故は、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではありません。前述したように、死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が▼予期せず▼医療に起因し、または起因すると疑われる—もの」に限定されます。例えば交通事故に巻き込まれ瀕死の状態で救急搬送された患者が、適切な治療の甲斐なく死亡してしまったケースなど「死亡が予期」された場合には、センターへの報告は必要ありません。ただし、そうした患者であっても、明らかに処置上のミスなどがあり通常の経過とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」ものとしてセンターへの報告が必要となってきます。

 もちろん、どこまでが「予期された」ものなのかは微妙なところであり、医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのか?」という疑問、また「初めて事故を報告するが、センターへどのように報告すればよいのか?」といった疑問が生じることがあるでしょう。

一方、遺族の中には、「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念をもつ方もいらっしゃるでしょう。

 こうした疑問・疑念の放置は制度の信頼性を失わせてしまうため、センターでは相談対応を行っています。今年(2019年)5月には、新たに170件の相談がセンターに寄せられ、制度発足からの累計では7099件にのぼっています。

 今年(2019年)5月に新たに寄せられた相談の内訳は、▼医療機関から:78件▼遺族などから:82件▼その他・不明:10件―でした。

 医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので49件(医療機関からの相談の51.6%)。次いで「院内調査に関するもの」23件(同24.2%)、「報告すべき医療事故か否かの判断」15件(同15.8%)となっています。医療現場には、制度の趣旨や内容が相当程度浸透し、理解も進んでいることが分かります。

医療事故の現況(19年5月)3 190607

 一方、遺族などからの相談内容では「医療事故に該当するか否かの判断」が71件(遺族などからの相談の78.9%)にのぼっています。ただし、こうした該当性に関する相談の中には「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれています。「制度の正しい理解」が依然として重要な課題となっています。

 

センターへの調査依頼は新たに3件、92件の依頼中20件でセンター調査完了

 前述のとおり、医療事故調査制度の目的は「再発防止」にあります。再発防止のためには、事故が生じた医療機関等自らが調査を行い、自院の体制や手続き・ルールなどに問題がなかったかを検証する過程で「院内の課題」を発見し、そこから防止策構築に繋げることが重要と考えられ、「まず事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行う」ことが求められます。

医療事故の現況(19年5月)2 190607

 今年(2019年)5月に新たに院内調査が完了した事例は30件で、制度発足からの累計では1034件となりました。これまでに報告された全1380件の医療事故のうち74.9%(前月から0.1ポイント増加)で院内調査が完了しています。院内調査のスピードがまた上がったようです。

 
 
 なお、遺族側には「院内調査の結果に納得がいかない」「院内調査が遅すぎる。何かを隠しているのではないか」との思いも生じることがあるでしょう。一方で、診療所や助産所など小規模施設では「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあると思われます(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制あり)。

 そこでセンターでは、「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制も整備しています。ここでは「センターが1から調査する」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されたのか」という観点での調査が中心となります。

 今年(2019年)5月に、センターになされた調査依頼は3件で、すべて遺族等からの依頼でした。制度発足からの累計調査依頼件数は92件(遺族から74件・80.4%、医療機関から18件・19.6%)です。センター調査の進捗状況を見てみると、20件で調査が終了しています(前月から増減なし)。

出典:メディ・ウォッチ

2019年3月末までに1308件の医療事故

 今年(2019年)3月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は24件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計1308件の医療事故が報告され、うち74.5%の974件で院内調査が完了している。センターへの遺族からの相談件数は118件となり、国民全体に制度が浸透しつつある。次のステップとして「制度への正しい理解」に期待が集まる―。

 日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が4月9日に発表した「医療事故調査制度の現況報告(3月)」から、こういった状況が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。

2019年3月の医療事故報告件数、外科で6件、内科で4件など

 2015年10月より、すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)に対し、院長などの管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が課せられました【医療事故調査制度】。医療事故の原因を調査・分析して「再発防止策」を構築し、医療現場に広く共有していくことが主目的です。

センターでは重大事故について詳細を分析した結果を、提言にまとめ順次、公表しています(2019年2月までに7つの提言)。
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析

 医療事故調査制度の大枠は、次のように整理できます。

▼医療事故の発生を確認した管理者は、速やかにセンターへ事故発生の旨を報告する

▼事故が発生した医療機関が自ら事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する

▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)

▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る

医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける
医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける

 我が国唯一のセンターに指定されている日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を迅速に公表。今年(2019年)3月には、新たに24件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1308件となりました。

 今年(2019年)3月に新たに報告された事故は、▼病院から23件▼診療所から1件―でした。制度発足からの累計では、病院から1232件(事故全体の94.2%)、診療所から76件(同5.8%)となっています。

医療事故の現況(2019年3月)1 190409

 今年(2019年)3月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼外科6件▼内科4件▼小児科3件▼脳神経外科2件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見てみると、▼外科222件(同17.0%)▼内科162件(同12.4%)▼消化器科108件(同8.3%)▼整形外科105件(同8.0%)―などという状況です。

センターへの相談件数は累計6745件、国民に制度が浸透し、次ステップは制度への理解

 センターに報告しなければならない医療事故は、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではありません。上述のように、死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が▼予期せず▼医療に起因し、または起因すると疑われる—もの」に限定されます。火災などに巻き込まれ瀕死の状態で救急搬送された患者が、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期」され、そもそも医療事故に該当しないと考えられるため、センターへの報告は必要ありません。もっとも、そうした患者であっても、明らかな処置上のミスなどで通常の過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」ものとしてセンターへの報告が必要となってきます。

 医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのか?」「初めて事故を報告するが、センターへどのように報告すればよいのか?」との疑問が生じることでしょう。また遺族側には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのか?」との疑念をもつ方もいらっしゃるでしょう。

 こうした疑問・疑念を放置することは、制度の信頼失墜に繋がりかねないため、センターでは相談対応を行っています。今年(2019年)3月には、新たに190件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では6745件にのぼっています。

 今年(2019年)3月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から62件▼遺族などから118件▼その他・不明10件―でした。

 医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので36件(医療機関からの相談の46.8%)。次いで「報告すべき医療事故か否かの判断」16件(同20.8%)、「院内調査に関するもの」14件(同18.2%)となっています。

医療事故の現況(2019年3月)2 190409

 一方、遺族などからの相談内容では、「医療事故に該当するか否かの判断」が80件(遺族などからの相談の63.5%)にのぼっています。ただし、こうした該当性に関する相談の中には「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれています。相談件数の増加に鑑みれば、「制度の浸透そのものは進んできている」と見ることができるかもしれません。次のステップとして「正しい理解」に期待が集まります。

センターへの調査依頼は新たに2件、88件の依頼中18件でセンター調査が完了

 医療事故調査制度の目的は「再発防止」にあります。再発防止のためには、事故が生じた医療機関等自らが調査を行い、自院の体制や手続き・ルールなどに問題がなかったかを検証する過程で「院内の課題」を発見し、そこから防止策構築に繋げることが重要と考えられ、「まず事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行う」ことが求められます。

医療事故の現況(2019年3月)3 190409

 今年(2019年)3月に新たに院内調査が完了した事例は25件で、制度発足からの累計では974件となりました。これまでに報告された全1308件の医療事故のうち74.5%(前月から0.6%増加)で院内調査が完了しています。院内調査のスピードが再び速まっている可能性があります。

 
 なお、遺族側には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅い。何かを隠しているのではないか」との思いも生じることでしょう。一方で、診療所や助産所など小規模施設では「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあると思われます(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制あり)。

 そこでセンターでは、「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制を整備。ここでは、「センターが1から調査する」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されたのか」という観点での調査が中心となります。

 今年(2019年)3月に、センターになされた調査依頼は2件で、いずれも遺族からでした。制度発足からの累計調査依頼件数は88件(遺族から71件・80.7%、医療機関から17件・19.3%)です。センター調査の進捗状況を見てみると、▼調査終了が18件(前月から2件増)▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が65件▼院内調査結果報告書検証準備作業中が1件▼医療機関における院内調査の終了待ちが4件—という状況です。

出典: メディ・ウォッチ

「医療事故調査、適正な運用を」 広尾病院事故20年

東京都立広尾病院(東京・渋谷)の点滴誤投与事故から11日で20年。事故ではミスの疑いを十分に調査しない病院の対応が明らかになり、医療事故調査制度が発足するきっかけとなった。だが創設3年が過ぎても医療機関側の届け出は低迷、遺族との対立も続く。広尾病院で妻を失った男性は「せっかくできた制度。適正に運用できるようにしてほしい」と求める。

都立広尾病院事故から20年を検証するシンポジウムで事故調査制度の課題を指摘する永井裕之さん(10日、東京・文京)

都立広尾病院事故から20年を検証するシンポジウムで事故調査制度の課題を指摘する永井裕之さん(10日、東京・文京)

「医療事故は他人事ではない」。20年前の事故で妻の悦子さん(当時58)を突然失った永井裕之さん(78)は10日、都内で開かれた集会で約150人の参加者に訴えた。

悦子さんは左手中指関節の手術を受けた翌日の点滴で容体が急変、死亡した。看護師が誤って消毒液を投与したためだった。院長は「誤投与の疑いが強い」と認めながら、約1週間後に「断定できない」と態度を変え、十分に調査せず警察へも届け出なかった。

永井さんが不信感を強める中、3月に事故隠しの疑いが報じられた。1月には横浜市立大病院で患者取り違え事故が起きており、1999年は対策が本格化する”医療安全元年”となった。

「原因を調査し、再発防止につなげる組織が必要」。永井さんら遺族などを医学会も後押しして2015年10月に医療事故調査制度が創設された。だが医療事故調査・支援センター(東京・港)への医療機関の届け出件数は年400件弱のみ。当初は年1300~2000件とみられた。

都立広尾病院事故から20年を検証するシンポジウムで事故当時を振り返る永井裕之さん(右)(10日、東京・文京)

都立広尾病院事故から20年を検証するシンポジウムで事故当時を振り返る永井裕之さん(右)(10日、東京・文京)

10日の集会で永井さんは「小さく生んで大きく育てるつもりだったが、小さいままだ」と指摘。予期せず死亡した患者の遺族から「医療機関は『合併症』としてミスを否定して届け出ない」という声が後を絶たない。

永井さんは「交通事故は約20年で半分以下に減ったが、医療事故はいまだ何件起きているのか分からない」と嘆く。現在はセンターへの事故調査の届け出は医療機関のみ。永井さんは「センターが遺族の相談から医療機関に調査開始を指導するなど制度を見直す必要がある」と要望している。

出典:日本経済新聞

2019年1月末までに1260件の医療事故、73.9%で院内調査完了―日本医療安全調査機構

 今年(2019年)1月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は26件。2015年の医療事故調査制度発足から累計1260件の医療事故が報告され、うち73.9%の931件で院内調査が完了するなど、医療機関の調査スピードはさらに向上している。ただし、制度の重要課題である「一般国民への制度周知」がまだ十分に進んでいない―。

 日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が2月5日に、こういった状況を公表しました(機構のサイトはこちら)。

2019年1月の医療事故報告件数、内科と循環器内科で4件、外科で3件など

2015年10月から、すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)に、院長などの管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が課せられました【医療事故調査制度】。医療事故の原因を調査・分析して「再発防止策」を構築し、医療現場に広く共有していくことを目的とする仕組みです。

センターでは、重大事故について詳細を分析し、これまでに(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析—という6つの再発防止策を公表しています(7つめの再発防止策が公表されており、別稿でお伝えします)。

 医療事故調査制度の流れは、次のように整理できます(関連記事はこちら)。

▼医療事故の発生を確認した管理者は、速やかにセンターへ事故発生の旨を報告する

▼事故が発生した医療機関が自ら事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する

▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)

▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る

医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける
医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける

 我が国唯一のセンターに指定されている日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を迅速に公表しています(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2019年)1月には、新たに26件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1260件となりました。

 今年(2019年)1月に新たに報告された事故は、すべて病院からでした。制度発足からの累計では、病院から1188件(事故全体の94.3%)、診療所から72件(同5.7%)となっています。

医療事故の現況(2019年1月)1 190205

 今年(2019年)1月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼内科4件▼循環器内科4件▼外科3件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見てみると、▼外科210件(同16.7%)▼内科156件(同12.4%)▼消化器科105件(同8.3%)▼整形外科105件(同8.3%)―などという状況です。

 

センターへの相談件数は累計6400件、「国民の制度への理解」が依然、重要課題

 センターに報告しなければならない医療事故は、上述したように、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではなく、院長などの管理者が▼予期せず▼医療に起因し、または起因すると疑われる—事故に限定されます。例えば、火災などに巻き込まれ瀕死の状態で救急搬送された患者が、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期」され、そもそも医療事故に該当しないと考えられるため、センターへの報告は必要ありません。ただし、そうした患者であっても、明らかな処置上のミスなどがあり通常の過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」ものとしてセンターへの報告が必要となります。

 この点、医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのか?」という疑問が、また、初めて事故を報告する際には「センターへどのように報告すればよいのか?」との疑問も生じることでしょう。一方、遺族側には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのか?」との疑念がわくケースもあるでしょう。

 こうした疑問・疑念の放置は、制度の信頼を失墜させてしまうため、センターでは相談対応を行っています。今年(2019年)1月には、新たに150件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では6400件にのぼっています。

 今年(2019年)1月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から55件▼遺族などから83件▼その他・不明12件―となっています。

 医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので27件(医療機関からの相談の41.5%)。次いで「報告すべき医療事故か否かの判断」が16件(同24.6%)、「院内調査に関するもの」が14件(同21.5%)となりました。

医療事故の現況(2019年1月)3 190205

 一方、遺族などからの相談内容では、「医療事故に該当するか否かの判断」が70件(遺族などからの相談の72.2%)にのぼっています。こうした該当性に関する相談の中には、「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれており、一般国民への、制度浸透がやはり大きな課題である状況に変化はないようです。

 
医療機関サイドが、迅速かつ正しく医療事故を報告したとしても、一般国民が制度を正しく理解し、信頼してくれなければ制度の基盤が揺らいでしまいます。医療や制度等に十分な知識のない一般国民にも、医療事故調査制度が理解しやすい形で周知していくことが求められます。
 

センターへの調査依頼は新たに4件、全85件の依頼中13件でセンター調査が完了

 医療事故調査制度の目的は「再発防止」です。このため、まず事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行ことが求められます。自院の体制やプロセスを検証しなおすことで、「院内の課題」などを発見・確認し、そこから防止策を「自主的に構築していく」ことが再発防止の近道と考えられるためです。

医療事故の現況(2019年1月)2 190205

 今年(2019年)1月に新たに院内調査が完了した事例は23件で、制度発足からの累計では931件となりました。これまでに報告された全1260件の医療事故のうち73.9%(前月から0.3ポイント向上)で院内調査が完了しています。院内調査のスピードはさらに増しており、医療機関サイドの努力や積極的な事項防止に向けた取り組みが確認できます。
 
 
 なお、遺族側には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅い。時間稼ぎをしているのではないか」との思いもあると考えられます。また診療所や助産所など小規模施設では「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制あり)。

 そこでセンターでは、「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制を整備しています。ただし、「センターが最初から調査する」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されたのか」という観点での調査が中心となります。

 今年(2019年)1月に、センターになされた調査依頼は4件で、遺族から3件、医療機関等から1件でした。制度発足からの累計調査依頼件数は85件(遺族から68件・80.0%、医療機関から17件・20.0%)です。センター調査の進捗状況を見てみると、▼調査終了が13件(前月と変わらず)▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が68件▼院内調査結果報告書検証準備作業中が2件▼医療機関における院内調査の終了待ちが2件—という状況です。

出典:メディ・ウォッチ

2018年11月までに1200件の医療事故、72.8%で院内調査が完了―日本医療安全調査機構

 今年(2018年)11月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は31件。医療事故調査制度発足から累計1200件の医療事故が報告され、うち72.8%の874件で院内調査が完了するなど、医療機関の調査スピードがますます向上している。ただし一般国民は、本制度を必ずしも十分には理解しておらず、制度の浸透が依然として大きな課題である―。

 日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が12月7日に、こういった状況を公表しました(機構のサイトはこちら)。

2018年11月の医療事故報告件数、整形外科で4件、消化器科等や3件

2015年10月から、すべての医療機関には、院長など管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務が課せられました(医療事故調査制度)。事故の原因を調査・分析して「再発防止策」を構築し、医療現場に広く共有していくことを目的とする仕組みです(関連記事はこちら)。

センターでは、重大事故について詳細を分析し、すでに(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析—の6つの再発防止策を公表しています。

 医療事故調査制度の流れは、次のように整理できます(関連記事はこちら)。

▼医療事故の発生を確認した管理者は、速やかにセンターへ事故発生の旨を報告する

▼当該医療機関で事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する

▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因について遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)

▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る

医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける
医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける

 我が国唯一のセンターに指定されている日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を迅速に公表しています(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2018年)11月には、新たに31件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1200件となりました。

 今年(2018年)11月に新たに報告された事故の内訳は、病院から30件、診療所から1件となりました。制度発足からの累計では、病院から1129件(事故全体の94.1%)、診療所から71件(同5.9%)となっています。

医療事故の現況(18年11月)1 181207

 今年(2018年)11月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼整形外科4件▼消化器科3件▼循環器内科3件▼心臓血管外科3件▼脳神経外科3件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見ると、▼外科203件(同16.9%)▼内科145件(同12.1%)▼消化器科103件(同8.6%)▼整形外科102件(同8.5%)―などという状況です。

 

センターへの相談件数は累計6098件、依然「国民の制度への理解」が重要課題

 センターに報告しなければならない医療事故は、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではありません。院長などの管理者が▼予期しなかった▼医療に起因し、または起因すると疑われる—事故に限定されます。例えば、火災などに巻き込まれ瀕死の状態で救急搬送された患者が、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期」され、そもそも医療事故に該当しないと考えられるため、センターへの報告は必要ありません。ただし、そうした患者であっても、明らかな処置上のミスなどがあり通常の過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」ものとしてセンターへの報告が必要となります。

 この点、医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するだろうか?」という疑問が生じるケースがあります。また、初めて事故を報告する際には「センターへ、どのように報告すればよいのだろうか?」との疑問も生じることでしょう。一方、遺族側には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念がわくケースもあるでしょう。

 こうした疑問・疑念の放置は、制度の信頼を失墜させることにつながるため、センターでは相談対応を行っています。今年(2018年)11月には、新たに182件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では6098件にのぼっています。

 今年(2018年)11月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から77件▼遺族などから88件▼その他・不明17件―となっています。

 医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので38件(医療機関からの相談の49.4%)。次いで「院内調査に関するもの」が21件(同27.3%)、となりました。「報告すべき医療事故か否かの判断」は11件(同じく14.3%)にとどまっており、医療現場に制度が相当程度浸透していることが伺えます(関連記事はこちらこちら)。

医療事故の現況(18年11月)3 181207

 一方、遺族などからの相談内容に目を移すと、依然として「医療事故に該当するか否かの判断」がほとんどで、75件(遺族などからの相談の85.2%)となっています。また、こうした該当性に関する相談の中には、「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれており、一般国民には、制度の内容が十分には浸透していない状況が伺えます。

 
いかに「迅速かつ正しく医療事故を報告する」など、医療現場が適切な制度運用を行ったとしても、一般国民からの理解・信頼がなければ制度の基礎が揺らいでしまいます。一般国民に医療事故調査制度を分かりやすく周知していくことが喫緊の課題と言えるでしょう。
 

センターへの調査依頼は新たに2件、全78件中11件でセンター調査が完了

 前述したように、医療事故調査制度の目的は「再発防止」にあります。このため、まず事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行ことが求められます。自身で体制やプロセスを調べることで、「院内の課題」などを発見・確認し、そこから防止策を「自主的に構築していく」ことが再発防止の近道と考えられるためです。

医療事故の現況(18年11月)2 181207

 今年(2018年)11月に新たに院内調査が完了した事例は23件で、制度発足からの累計では874件となりました。これまでに報告された全1200件の医療事故のうち、72.8%で院内調査が完了していることになります。院内調査のスピードはさらに増加しており、医療機関側の努力、積極的な姿勢が伺えます。

 
 ところで、遺族の中には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅い。時間稼ぎをしているのではないか」と感じる人もいることでしょう。またクリニックなど小規模医療機関等では「自院で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制もある)。

 そこで、センターでは、「遺族や医療機関からの調査依頼を受け付ける」体制も整備しています。ただし、「センターが一から調査する」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されたのか」という観点での調査が中心となります。

 今年(2018年)11月に、センターになされた調査依頼は2件で、医療機関から1件、遺族から1件という内訳です。制度発足からの累計調査依頼件数は78件(遺族から62件・79.5%、医療機関から16件・20.5%)です。進捗状況を見ると、▼センター調査終了が11件(前月から2件増加)▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が65件▼院内調査結果報告書検証準備作業中が1件▼医療機関における院内調査の終了待ちが1件—となっています。

出典:メディ・ウォッチ

2018/9までに千件超の医療事故、制度理解は依然進まず

今年(2018年)9月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は27件。医療事故調査制度発足から、累計1129件の医療事故が報告され、うち72.4%の817件で院内調査が完了。各医療機関の調査スピードがますますアップしている。ただし国民は、本制度を必ずしも十分には理解していない―。

日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が10月3日に、こういった状況を公表しました(機構のサイトはこちら)。

2018年9月の医療事故報告件数、外科や内科などで3件

すべての医療機関は、院長など管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告する義務を負います(医療事故調査制度、2015年10月スタート)。医療事故調査制度は、事故の原因を調査・分析して「再発防止策」を構築し、医療現場に広く共有することを目的としています。

センターでは、これまでに重大な事故について詳細を分析し、(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析—という6つの再発防止策を公表しています。

医療事故調査制度の流れをお浚いすると、大きく次のように整理できます(関連記事はこちら)。

▼医療事故の発生を確認した管理者は速やかに、センターに事故発生の旨を報告する

▼当該医療機関で事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する

▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因について遺族に説明する(調査結果報告書を提示することまでは不要とされている)

▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る

医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける
医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける

我が国唯一のセンターに指定されている日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を迅速に公表(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2018年)9月には、新たに27件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1129件となりました。

2018年9月に新たに報告された事故の内訳は、病院からが25件、診療所からが2件で、制度発足からの累計では、病院から1061件(事故全体の94.0%)、診療所から68件(同6.0%)となっています。

2018年9月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼外科3件▼内科3件▼循環器内科3件▼産婦人科3件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見ると、▼外科193件(同17.1%)▼内科140件(同12.4%)▼消化器科98件(同8.7%)▼整形外科94件(同8.3%)―などという状況です。
医療事故の現況(2018年9月)1 181003

センターへの相談件数は累計5749件、依然として「国民の制度への理解」が重要課題

前述したとおり、センターに報告しなければならない医療事故は、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではなく、そのうち「院長などの管理者が▼予期しなかった▼医療に起因し、または起因すると疑われる—もの」に限定されます。火災などで瀕死の状態で救急搬送され、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合に、一般に「死亡が予期」され、そもそも医療事故に該当しないと考えられるためです。もっとも、そうした患者であっても、明らかな処置上のミスなどがあり、通常の過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期しなかった」ものとして報告が必要となります。

この点、医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するか?」という疑問が生じるケースがあります。また、初めて事故報告をする際には「センターへ、どのように報告すればよいのか?」との疑問も生じるでしょう。一方、遺族側には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていないようだ。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念がわくケースもあるかもしれません。

こうした疑問・疑念を放置することは、制度の信頼を揺るがせ、基盤を脆弱にしてしまうため、センターでは相談対応を行っています。今年(2018年)9月には、新たに120件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では5749件にのぼっています。

2018年9月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から49件▼遺族などから58件▼その他・不明13件―となっています。

医療機関からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので26件(医療機関からの相談の53.1%)。次いで「院内調査に関するもの」が14件(同28.6%)、「報告すべき医療事故か否かの判断」が7件(同じく14.3%)となりました。医療現場への制度の浸透が強く伺えます(関連記事はこちらこちら)。

一方、遺族などからの相談内容に目を移すと、依然として「医療事故に該当するか否かの判断」が大半を占め、42件(遺族などからの相談の72.4%)となっています。また、こうした該当性に関する相談の中には、「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれており、「医療現場と一般国民との医療事故調査制度に対する認識のズレ」は、広まる一方と言わざるを得ない状況です。いかに医療現場が正しく報告を行い、適切に制度を運用していても、一般国民の信頼がなければ制度の礎は脆くなります。今一度、一般国民に医療事故調査制度を周知していくことが必要です。
医療事故の現況(2018年9月)3 181003

センターへの調査依頼は新たに2件、全75件中8件でセンター調査が完了

前述したように、医療事故調査制度の目的は「再発防止」です。このため、まず事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行ことが求められます。院内調査の過程で自院の体制を点検し、再発防止策を構築することが再発防止の近道と考えられるためです。

今年(2018年)9月に新たに院内調査が完了した事例は30件で、制度発足からの累計では817件となりました。これまでに報告された全1129件の医療事故のうち72.4%で院内調査が完了している計算です。院内調査のスピードはますまs増加しており、医療機関サイドの努力が伺えます。
医療事故の現況(2018年9月)2 181003

ところで、遺族の中には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅い。時間稼ぎをしているのではないか」と感じる人もいることでしょう。またクリニックなど小規模医療機関等では「自院で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制もある)。

そこで、センターでは、「遺族や医療機関からの調査依頼を受け付ける」体制も整備しています。ただし、一から調査するのではなく、「院内調査が時期・内容ともに適正に実施されたか」という観点での調査が中心となります。

今年(2018年)9月に、センターになされた調査依頼は遺族からの2件でした。制度発足からの累計調査依頼件数は75件(遺族から60件・80.0%、医療機関から15件・20.0%)です。進捗状況を見ると、▼センター調査終了が8件(前月から1件増加)▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が66件▼院調査結果報告書の準備作業中が1件—となっています。

出典:メディ・ウォッチ

医療事故調査制度発足から千件超の報告、7割超で院内調査完了

今年(2018年)6月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は31件。医療事故調査制度発足から、累計1028件の医療事故が報告され、うち7割超の728件で院内調査が完了。各医療機関の調査スピードがますますアップしている―。

日本で唯一のセンターとして指定されている「日本医療安全調査機構」が7月9日に、こういった状況を公表しました(機構のサイトはこちら)。もっとも、機構では「事故発生から報告までの期間が延びている」とのデータも発表しており、今後、時期を見て詳細な分析を行うことが必要でしょう(関連記事はこちら)。

2018年6月の医療事故報告件数、外科で5件、消化器科・整形外科等で各3件

2015年10月から、すべての医療機関において、院長など管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告することを義務付ける「医療事故調査制度」がスタートしました。この制度では、事故の原因を調査し、明らかにする中で、「再発防止策」を構築し、広く共有することを目的としています。

センターでは、これまでに重大な事故について詳細を分析し、(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析—という4つの再発防止策を公表しています。

医療事故調査制度の大きな流れを確認すると、▼医療事故発生を確認した管理者は速やかに、センターに事故発生の旨を報告する → ▼当該医療機関で事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する → ▼当該医療機関は、調査結果に基づいて事故の内容や原因について遺族に説明する(調査結果報告書などの提示までは不要) → ▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る—というものです(関連記事はこちら)。

医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける
医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける

我が国唯一のセンターである日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を極めて迅速に公表(前月の状況は こちら、前々月の状況はこちら)。今年(2018年)6月には、新たに31件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は1028件と、1000件の大台に乗りました。

2018年6月に新たに報告された事故の内訳は、病院からが29件、診療所からが2件で、制度発足からの累計では、病院から965件(事故全体の93.9%)、診療所から63件(同6.1%)となっています。

2018年6月に新たに報告された事故を診療科別に見ると、▼外科5件▼消化器科3件▼整形外科3件▼循環器内科3件▼心臓血管外科3件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見ると、▼外科176件(同17.1%)▼内科130件(同12.6%)▼消化器科89件(同8.7%)▼整形外科87件(同8.5%)―などという状況です。徐々に「さまざまな診療科で事故が報告されてきている」状況が伺えます。

2018年6月に、新たに31件の医療事故が報告され、制度発足(2015年10月)からの累計で1028件の医療事故が報告され、1000件の大台に乗った
2018年6月に、新たに31件の医療事故が報告され、制度発足(2015年10月)からの累計で1028件の医療事故が報告され、1000件の大台に乗った

 

センターへの相談件数は累計5302件、「遺族の制度への理解」が依然として重要課題

前述のとおり、センターに報告しなければならない医療事故は、医療機関内で生じたすべての死亡・死産事例ではなく、そのうち「院長などの管理者が▼予期しなかった▼医療に起因し、または起因すると疑われる—もの」に限定されます。例えば、火災などに巻き込まれ瀕死の状態で救急搬送され、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期される」ため報告の必要はありません。しかし、そうした患者であっても、例えば明らかな処置のミスなどがあり、通常の治療過程とは異なるプロセスで死亡した場合には、「予期されなかった」ものとして報告が必要となります。

医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するか?」という疑問が生じることもあるでしょうし、初めて事故報告をする際には「センターへどのように報告すればよいのか」との疑問も生じるでしょう。また、遺族が「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのではないか」といった疑念を抱くこともあるでしょう。

これらの疑問・疑念を放置することは制度の信頼を揺るがすため、センターでは相談対応を行っています。今年(2018年)6月には、新たに185件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計相談件数は5302件にのぼっています。

2018年6月に寄せられた新たな相談の内訳は、▼医療機関から67件▼遺族などから110件▼その他・不明8件―となっています。

医療機関からの相談内容を見ると、もっとも多いのは「報告の手続き」に関するもので45件(医療機関からの相談の67.2%)。次いで「院内調査に関するもの」が17件(同じく25.4%)、「報告すべき医療事故か否かの判断」が11件(同じく16.4%)となりました。制度発足から3年近くが経過しており医療現場へ制度が浸透していること、また2年前(2016年6月)に医療事故調査制度の運用改善(医療事故該当性の判断などを標準化するための「支援団体等連絡協議会」を設置するなど)が行われたため、事務的な相談が大半を占める状況になっていると言えます(関連記事はこちらこちら)。

一方、遺族などからの相談内容を見ると、依然「医療事故に該当するか否かの判断」が大半を占め、83件(遺族などからの相談の75.5%)となっています。またこうした該当性に関する相談の中には、「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも報告対象とならないものも含まれており、「医療現場と一般国民との医療事故調査制度に対する認識のズレ」が拡大していく点が気になります。医療現場が正しく報告し、センターで適切に制度を運用しても、一般国民から疑念の目で見られてしまっては、制度運用の礎となる「信頼感」が失われてしまう可能性もあるためです。さまざまな機会を通じて、これまで以上に、一般国民に医療事故調査制度を周知していくことが必要でしょう。

センターへの相談は2018年6月に185件あり、うち67件が医療機関から、110件が遺族などからのものとなっているが、これらの中には「制度の対象外の事例」も含まれている点には注意が必要である
センターへの相談は2018年6月に185件あり、うち67件が医療機関から、110件が遺族などからのものとなっているが、これらの中には「制度の対象外の事例」も含まれている点には注意が必要である

 

センターへの調査依頼は新たに6件、全69件中5件でセンター調査も完了

上述したように、医療事故調査制度の目的は「再発防止」にあります。このため、事故が発生した医療機関が、自ら原因究明に向けた調査【院内調査】を行い、それを踏まえて自院の体制を点検し、再発防止策を構築することが重要です。

今年(2018年)6月に新たに院内調査が完了した事例は31件で、制度発足からの累計では728件となりました。これまでに報告された全1028件の医療事故のうち70.8%で院内調査が完了したことになり、7割の大台に乗りました。院内調査スピードが向上していることを再認識できます。

医療事故を報告した医療機関のうち、新たに院内調査が完了したものは2018年6月に31件、制度発足からの累計で728件となった(報告された事故全体の70.8%)
医療事故を報告した医療機関のうち、新たに院内調査が完了したものは2018年6月に31件、制度発足からの累計で728件となった(報告された事故全体の70.8%)

ところで、遺族の中には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅い。時間稼ぎをしているのではないか」と感じる人もいることでしょう。またクリニックなど小規模医療機関等では「自院で院内調査を実施することが難しい」ケースもあるでしょう(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制もある)。

そこで、センターでは、「遺族や医療機関からの調査依頼を受け付ける」体制も整えています。ここでは「院内調査が時期・内容ともに適正に実施されたか」という観点での調査が中心となります。

この点、今年(2018年)6月に、センターになされた調査依頼は4件ありました。すべて遺族からの調査依頼で、制度発足からの累計調査依頼件数は69件(遺族から54件・78.3%、医療機関から15件・21.7%)で、進捗状況を見ると、▼センター調査終了が5件▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が63件(前月より3県増)▼院内調査結果報告書検証準備産業中が1件—となり、順調にセンター調査が行われていることが伺えます。

18年5月までに997件の医療事故、内7割で院内調査完了

今年(2018年)5月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は32件。医療事故調査制度発足から、累計997件の医療事故が報告され、うち69.9%で院内調査が完了。各医療機関の調査スピードが確実に向上している―。

日本で唯一のセンターとして指定されている「日本医療安全調査機構」が6月5日、こういった状況を公表しました(機構のサイトはこちら)。ただし、医療安全調査機構では「事故発生から報告までの期間が延びている」とも考えており、今後、時期を見て詳細な分析を行うことが必要でしょう(関連記事はこちら))。

医療事故報告の件数、2018年5月は外科で5件、消化器科・泌尿器科で各4件

2015年10月から医療事故調査制度が始まりました。すべての医療機関で、院長など管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてをセンターに報告することを義務付けるもので、事故の原因を調査・救命する中で「再発防止策」を構築し共有することが目的です(関連記事はこちら)。

センターでは積極的に再発防止策を構築しており、これまでに(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析—が公表されています。

医療事故調査制度の大きな流れを確認すると、▼医療事故発生を管理者が確認した場合、速やかにセンターに実行発生を報告する → ▼当該医療機関で事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する → ▼当該医療機関が、調査結果に基づいて事故の内容や原因について遺族に説明する(調査結果報告書などの提示までは不要) → ▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る—というものです(関連記事はこちら)。

医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける
医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける

我が国唯一のセンターである日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を極めて迅速に公表しています(前月の状況はこちら、前々月の状況はこちら)。今年(2018年)5月には、新たに32件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は997件となりました。

新たに報告された事故の内訳は、病院からが30件、診療所からが2件で、制度発足からの累計では、病院から936件(事故全体の93.9%)、診療所から61件(同6.1%)となっています。

新たな事故を診療科別に見ると、▼整形外科5件▼消化器科4件▼泌尿器科4件▼内科3件▼産婦人科3件―などで多くなっています。制度発足からの累計を見ると、▼外科171件(同17.2%)▼内科129件(同12.9%)▼消化器科86件(同8.6%)▼整形外科84件(同8.4%)―などとなっています。

2018年5月に、新たに32件の医療事故が報告され、制度発足(2015年10月)からの累計で997件の医療事故が報告されている
2018年5月に、新たに32件の医療事故が報告され、制度発足(2015年10月)からの累計で997件の医療事故が報告されている

 

センターへの相談件数は累計で5117件、遺族の制度への理解はなかなか進まず

前述のとおり、センターに報告しなければならない医療事故は、死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が▼予期しなかった▼医療に起因し、または起因すると疑われる—」ものに限定されます。例えば、火災などで瀕死の状態となり救急搬送され、適切な治療を施したにも関わらず死亡してしまった場合には、一般に「死亡が予期される」ため報告の必要はありません。ただし、そうした患者でも通常の治療過程とは異なるプロセス(例えば、明らかな処置のミスなど)で死亡した場合には、「予期されなかった」ものとして報告しなければなりません。

この点、医療現場では「患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するか?」という疑問が生じることでしょう。また、初めての報告などでは「センターへの報告方法」に関する疑問も当然生じます。一方、遺族側が「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。医療機関側が隠蔽しているのではないか」といった疑念を抱くこともあります。

これらの疑問・疑念を放置することは許されず、センターでは相談対応を行っています。今年(2018年)5月には、新たに171件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計相談件数は5117件にのぼりました。

センターへの相談は2018年5月に171件あり、うち87件が医療機関から、76件が遺族などからのものとなっているが、これらの中には「制度の対象外の事例」も含まれている点には注意が必要である
センターへの相談は2018年5月に171件あり、うち87件が医療機関から、76件が遺族などからのものとなっているが、これらの中には「制度の対象外の事例」も含まれている点には注意が必要である

新たな相談の内訳は、▼医療機関から87件▼遺族などから76件▼その他・不明8件―となっています。

医療機関からの相談内容を見ると、「報告の手続き」がもっとも多く65件(医療機関からの相談の74.7%)。次いで「院内調査に関するもの」が16件(同じく18.4%)、「報告すべき医療事故か否かの判断」が10件(同じく11.5%)となりました。制度発足から2年半が経過し、また一昨年(2016年)6月に医療事故調査制度の運用改善(医療事故該当性の判断などを標準化するための「支援団体等連絡協議会」を設置するなど)が行われており、医療現場に制度が定着してきていると言えるでしょう(関連記事はこちらこちらこちら)。

一方、遺族などからの相談内容を見ると、依然として「医療事故に該当するか否かの判断」が圧倒的多数を占め、60件(遺族などからの相談の78.9%)となりました。一般国民の制度への理解が十分進んでおらず、「医療現場と一般国民との意識のズレ」が拡大していく点が気になります(制度への信頼が失われてしまう可能性もある)。なお、相談の中には、「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも「報告すべき医療事故でない」ものもあり、さらなる「制度の普及・啓発」が必要な状況です。

センターへの新規調査依頼はなし、センター調査は順調に進捗

医療事故調査制度の目的は「再発防止」です。このため、事故が発生した医療機関が自ら、原因究明に向けた調査【院内調査】を行い、それを踏まえて自院の体制を点検し、再発防止策を練ることが重要と考えられています。

今年(2018年)5月に新たに院内調査が完了した事例は36件で、制度発足からの累計では697件となりました。これまでに報告された全997件の医療事故のうち69.9%で院内調査が完了。院内調査スピードはさらに向上しています。

医療事故を報告した医療機関のうち、新たに院内調査が完了したものは2018年5月に36件、制度発足からの累計で697件となった(報告された事故全体の69.9%)
医療事故を報告した医療機関のうち、新たに院内調査が完了したものは2018年5月に36件、制度発足からの累計で697件となった(報告された事故全体の69.9%)

ところで、遺族の中には「院内調査の結果に納得できない」「院内調査が遅すぎる。時間稼ぎをしているのではないか」と感じる人もいるでしょう。一方、小規模医療機関等では「自院だけで院内調査を実施することが難しい」ところもあるでしょう(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制もある)。

そこで、センターでは、「遺族や医療機関からの調査依頼を受け付ける」体制も整えています。「院内調査が時期・内容ともに適正に実施されたか」という観点での調査が中心となります。ただし今年(2018年)5月に、センターになされた調査依頼はゼロ件でした(前月に続きゼロ件)。制度発足からの累計調査依頼件数は65件(遺族から50件・76.9%、医療機関から15件・23.1%)で、▼センター調査終了が5件▼院内調査結果報告書の検証中(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)が60件—で順調に進んでいることが分かります。

出典:メディ・ウォッチ

 

2017年10-12月、医療事故での患者死亡は71件

昨年(2017年)10-12月に報告された医療事故は983件、ヒヤリ・ハット事例は7250件となった。医療事故のうち7.2%・71件では患者が死亡しており、10.7%・105件では死亡こそしなかったものの、障害が残る可能性が高い—。

こういった状況が、日本医療機能評価機構が3月30日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第52回報告書から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(2017年7-9月の状況はこちら)。

また報告書では、(1)集中治療部門のシステム関連(2)腎機能が低下した患者への薬剤投与量(3)開放式のドレーン・チューブの体内への迷入―に関連する医療事故を詳細に分析しています。

2017年10-12月、医療事故の7.2%、71件で患者が死亡

昨年(2017年)10-12月に報告された医療事故983件を、事故の程度別に見ると、「死亡」が71件(事故事例の7.2%)、「障害残存の可能性が高い」が105件(同10.7%)、「障害残存の可能性が低い」が263件(同26.8%)、「障害残存の可能性なし」が271件(同27.6%)などとなっています。「障害残存の可能性が高い」事故が、前3か月と比べて増加しており、重大な事故が増えている可能性が伺えます。

医療事故の概要を見ると、最も多いのは「療養上の世話」で420件(同42.7%)、次いで「治療・処置」248件(同25.2%)、「薬剤」80件(同8.1%)、「ドレーン・チューブ」74件(同7.5%)などと続いています。

2017年10-12月に報告された医療事故の概要
2017年10-12月に報告された医療事故の概要

幅広い場面でヒヤリ・ハット事例が発生、院内チェック体制の確認を

ヒヤリ・ハット事例に目を移すと、昨年(2017)年10-12月の報告件数は7250件でした。

概要を見ると、「薬剤」関連の事例が最も多く2656件(ヒヤリ・ハット事例全体の36.6%)、次いで「療養上の世話」1212件(同16.7%)、「ドレーン・チューブ」1070件(同14.8%)などとなっています。薬剤関連事例が減少し、他の場面でもヒヤリ・ハット事例が増加していることから、「より広範な分野」において院内のチェック体制を再確認(ダブルチェック、トリプルチェックなど)する必要性が高まっていると言えます。

ヒヤリ・ハット事例のうち4322件についての影響度を見ると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が96.0%とほとんどを占めていますが、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも3.3%・142件(前3か月に比べて0.7ポイント増加)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」も0.7%・30件(同0.2ポイント減少)あります。レアケースではありますが、一歩間違えば重大な影響の出る可能性がある事例が生じていることから、院内のチェック体制の重要性を再確認する必要性は全医療機関にあると言うべきでしょう。

2017年10-12月に報告されたヒヤリ・ハット事例の概要
2017年10-12月に報告されたヒヤリ・ハット事例の概要

ここで留意しなければならないのは、「個人が気を付ける」ことだけでは事故やヒヤリ・ハットの防止が困難という点です。医療従事者は多忙であり、「複数人でチェックする」「ミスに気付きやすい仕組みを考慮する」「定められたルールを確実に遵守する風土を作り上げる」など、医療機関全体で対策を講じることが重要です。

薬剤関連指示等の多いICU等、システムを使いやすくする工夫なども必要

報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析も行っています。今回は、(1)集中治療部門のシステム関連(2)腎機能が低下した患者への薬剤投与量(3)開放式のドレーン・チューブの体内への迷入―の3テーマについて、詳細な分析が行われました。

まず(1)の「集中治療部門のシステム」に関連する医療事故事例は、2013年1月から昨年(2017年)12月までに16件報告されています。うち15件は「薬剤」に、1件は「輸血」に関連するものです。

また医療事故16件のうち4件は「重症系システムの操作・端末画面に関連」する事例で、12件は「基幹システムと重症系システムの連携」に関連事例でした。このうち前者4件は、すべて薬剤に関連するものです。ICUなどでは1日ごとに薬剤関連指示が出されることが多く、「前日の指示から当日の指示を転記する際に、一括で転記し、投与期間や投与量の選択を誤った」ケースなどが報告されています。

ICU等において生じた薬剤関連事故における薬剤の一覧
ICU等において生じた薬剤関連事故における薬剤の一覧

報告書では、▼重症系システムを使用する医師、看護師、薬剤師がどのようなシステムであるか理解する▼職種ごとに必要な情報を整理して画面上でその情報が見やすく表示されるような工夫をする▼オーダに関しては、基幹システムと重症系システムの初期設定値を統一させることは難しいが、薬剤マスタを可能な限り一致させる―などの対策をとってはどうかと提案しています。

医師の知識不足、薬剤師の確認不足などで腎機能低下患者に過剰な薬剤投与事例も発生

また(2)の「腎機能が低下した患者への薬剤投与量」に関連する医療事故事例は、2012年1月から昨年(2017年)12月までに10件報告されており、▼新規処方7件▼継続処方2件▼持参薬から院内採用薬への変更1件―、また▼外来6件▼入院中4件―という内訳です。

関連する薬剤としては、▼バルトレックス錠500(抗ウイルス化学療法剤):3件▼バラシクロビル錠500mg(同):1件▼リリカカプセル(疼痛治療剤):1件▼リリカ(同):1件▼シベノール錠100mg(不整脈治療剤):1件▼ピルシカイニド塩酸塩カプセル(同):1件▼エディロールカプセル0.75μg(骨粗鬆症治療剤):1件▼クラビット錠500mg(広範囲経口抗菌製剤):1件―となっています。

腎機能が低下した患者に、誤って過剰量を投与してしまった薬剤の一覧
腎機能が低下した患者に、誤って過剰量を投与してしまった薬剤の一覧

ここで、上記薬剤を投与した医師のうち7割は「患者の腎機能」を認識しており、また10例中8例では薬剤師から医師への疑義照会が行われていませんでした。腎機能が低下すれば、薬剤排泄が不十分となるため、適切な用量を処方する必要があります。また薬剤によっては、この点を明確にし、添付文書に記載されているものものあります。なぜ「腎機能低下を認識」しながら、適切な用量設定が行われなかったのでしょう。

この点、事例を詳しく分析すると、処方医において「薬剤に対する知識不足」、薬剤師において「検査結果や患者状態の確認不足」、システムにおいて「透析患者であることが確認できない」など、さまざまな問題があることが浮かび上がってきています。医師が「当該患者は腎機能が低下している」と把握していても、「薬剤の用量を変更する必要がある」と知らなければ通常用量でオーダを出してしまいます。オーダを受けた薬剤師は、患者の状態を確認しなければ「腎機能が低下しており、用量を調整する必要がある」と気づけず、医師への疑義照会が行われることもありません。

こうした点を「コミュニケーション不足」と一言で片づけてしまうことは簡単ですが、それでは根本的な解決は難しいでしょう。院内のシステム改善(薬剤師が患者状態を確認できるようにする)など、医療従事者がミスをしてもカバーできる体制を構築していく必要があるのではないでしょうか。

 

出典:メディ・ウォッチ

 

医療事故調査制度 活用進まず 報告48件、東北低調

医療法に基づく医療事故調査制度の活用が進んでいない。制度が義務付けている「患者の予期せぬ死亡や死産」が起きた際の第三者機関への報告件数が、当初想定の半数以下にとどまり低調だ。制度の未活用は遺族から真相究明の機会を奪いかねず、医療機関の姿勢と患者側への周知が大きな課題となっている。(報道部・横山勲)

国指定の第三者機関である日本医療安全調査機構(東京)によると、制度が始まった2015年10月~今年11月末の事故報告は全国で計824件で、当初想定の年間1300~2000件を大きく下回る。東北6県では計48件にとどまる。
制度は、機構への届け出と院内調査、遺族と機構への調査結果の報告を義務付ける。調査には弁護士や大学教授ら外部の専門委員が原則として参加し、医師への聞き取りやカルテの確認などで事故原因を分析。遺族が調査結果に不服なら機構に再調査を依頼できる。
ただ、調査対象にするかどうかは事故が起きた医療機関の管理者(院長)の判断に委ねられる。医療機関側が患者の死亡を「予期できた」とみなして調査に入らなかったり、制度を遺族に説明すらしなかったりするケースが目立つという。
機構の医療事故調査・支援センターの担当者は「医療機関側は訴訟リスクや風評を気にして制度活用に消極的だ。院内調査が文化として根付くには時間がかかる」と話す。
制度は昨年6月、届け出がない事故の相談を遺族から受け付けた機構が事故の起きた医療機関に確認する仕組みに見直された。しかし制度の存在が患者側に浸透しておらず、改善は道半ばの状態だ。
医療訴訟で患者側代理人を担う弁護士らでつくる仙台医療問題研究会が毎年実施している無料電話相談会では、医療機関の説明に納得できない場合に対処方法が分からず戸惑う遺族が多いという。
研究会の事務局長を務める十河弘弁護士(仙台弁護士会)は「制度の本来の目的は予期しない死亡事故の再発防止だ。法的責任が問われる事態になっても医療機関側の真相究明への覚悟や姿勢を示すことで、遺族や他の患者からの信頼獲得につながるはずだ」と指摘する。

出典:河北新報