手術で体内にガーゼを置き忘れる事例が後を絶たない。千葉大医学部付属病院の近藤健特任助教(総合診療)は、置き忘れの具体的な事例を紹介し、警鐘を鳴らす論文を米医学誌に掲載。「手術の前後でガーゼの数を数えるなど、国がマニュアルを作るべきだ」と訴えている。【信田真由美】

 医療の質の向上を図るための公益財団法人「日本医療機能評価機構」(東京)の報告書によると、体内にガーゼが残されていたという医療機関からの報告は2014年は28件で、15年に16件に減ったものの、16年は増加して22件だった。だが、この件数も同機構に報告義務がある大学病院や国立病院のみ。私立、個人病院も含めるとさらに増えるが、件数は把握できていない。

 10年10月から5年間に同機構に報告があった122件を分析すると、置き忘れの期間は手術当日が最も多かったが、21年以上も6件あった。診療科別では、外科▽心臓血管外科▽産婦人科--の順に多かった。

 置き忘れたガーゼに菌が付着していたら合併症を発症する恐れがあり、死亡したケースも報告されている。一方、日本医療安全学会によると、置き忘れ防止のための確認方法などは各医療機関に任されており、共通の手順は定められていない。

 近藤特任助教の論文は今年2月、米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載された。取り上げたのは、40代の女性が、6年前と9年前に帝王切開手術を受け、どちらかの手術でガーゼを置き忘れられたとみられる事例。女性は腹部の膨張感を感じて病院を受診し、レントゲンを撮ったところ、二つのガーゼが見つかった。開腹手術でガーゼを取り除くと、膨張感は解消したという。

 女性は帝王切開手術を受けた産婦人科の病院に相談に行ったが、病院はミスとは認めなかったという。一般的に、カルテは法定で義務付けられた5年間しか保管されておらず、他に手術を受けていないことを証明することも難しいという。

 近藤特任助教は取材に、「身体的負担に加え、経済的負担をかけることになったのは悲劇だ。医療の治療法などは発展しているが、安全面は進んでおらず、現在の医療システムに警鐘を鳴らしたい」と話している。


ガーゼを置き忘れた期間

         件数

0日(手術当日) 38

1日(手術翌日) 11

1週間未満    17

1カ月未満    14

1年未満      7

2年未満      0

2~5年      5

6~10年     3

11~20年    4

21~30年    3

31~40年    2

41~50年    1

記載なし・不明  17

置き忘れが多い診療科

       件数

外科     31

心臓血管外科 18

産婦人科   16

麻酔科     8

形成外科    7

泌尿器科    7

婦人科     7

 (いずれも日本医療機能評価機構への2010年10月~15年9月の報告分から)

出典:毎日新聞